ニッパーの家

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【学怖・鳴七】キーワードラリーペーパー再録

2023年8月4日のWebオンリー「誰の話を聞こうか?」ありがとうございました!

キーワードラリーで提出したペーパーの再録です。
アlパlシlーl鳴l神l学l園l七l不l思l議のネタバレがあります。

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 荒井昭二の肉体がぐったりと横たわり、その傍らで、新堂誠が拳を握りしめたまま真っ青な顔で震えていた。
「やって……しまいました」
 力なく呟いた新堂の言葉は絶望に染まっていた。福沢玲子がそんな新堂の腕を強く揺さぶった。
「どうしてくれんだ! 俺を殺人犯にする気かよ!」
「だって……風間さんが僕の体であんなことするから」
「だからって自分を殺す奴があるかよ! しかも俺の体で!」
「こんなに力が強いと思わなかったんです!」
 怒鳴り返した新堂はしゃがみ込み頭を抱えた。
 福沢は新堂を揺さぶるが、新堂の体幹は頑丈で、彼女の力では彼の体は揺らがなかった。その事実に福沢はハッと怯み、自身の手のひらを信じられないものを見る目で見つめた。
「弱すぎる……こんなんで、やっていけるのかよ」
 福沢は立ち尽くした。七人が集まったつごもり橋下の河川敷は、困惑と悲壮感に支配されていた。
 語り部だった六人と坂上修一は、日野貞夫の計略にひっかかり肉体と精神を入れ替えられた。新堂の体に精神を移植された荒井は、その体の全力で、風間望の精神が宿る自分の肉体を殴ってしまったのだ。新堂の全力で荒井を殴ればどうなるかは火を見るより明らかだ。避けられない死。運が良くても後遺症が残るに違いなかった。
 それもこれも風間が、荒井の姿で風間の肉体にベタベタくっつこうとしたからだった。
「ヤダヤダ! 来ないでください!」と逃げ回る風間(精神は玲子)に、荒井(精神は望)は「チューしようよ! 世界で一番美しいボクの身体〜!」と追いかけ回したのだ。
 だから新堂(昭二)は思わずやってしまった。以来、荒井(望)はピクリとも動かない。

「助けてくれてありがとうございます新堂さん♡」
「僕は荒井です……」
 風間(玲子)が、荒井(望)のセクハラを防いだ新堂(昭二)にぴったりと寄り添ったが、新堂(昭二)には相手をしている余裕がなかった。
「落ち着いてください荒井さん」
 そんな新堂(昭二)に声をかけたのは岩下明美坂上修一)だった。彼女(彼)は荒井(望)の腕を取って言った。
「脈はあります。死んでません。今は冷静になってこれからのことを考えましょう」
坂上君……そうですね。少しでも冷静にならなければ」
 眉を寄せ、背中を丸め、子犬のように震えていた新堂(昭二)だったが、岩下(修一)に促されて涙ぐんでいた目元を拭い、気持ちを切り替えるように微笑んだ。
 それを見る福沢(誠)は、自分の肉体が情けなくもメソメソし、その上女の子に慰められている事に眩暈した。
「皆さん大変ですねえ。まあ僕には関係ないですけどね」
 すったもんだを高みの見物で眺めるのは坂上(精神は細田友晴)だった。坂上の肉体を手に入れてご満悦の彼はこのまま坂上修一として生きていくつもりだった。
「うぷぷ。僕はこれからいつもの日常に戻りますよ。家に帰って、ママとパパに甘えちゃうんだ。ひょっとしたらお姉ちゃんか妹がいたかもしれないなあ。え〜どうしよう、一つ屋根の下なんて僕困っちゃうなあ」
 くねくねと坂上(友晴)は身悶えた。岩下(修一)は真顔で聞いていたが、最後に静かに告げた。
「……決めました。荒井さん。お願いします」
「まさか、坂上君」
「これ以上恥を晒すくらいなら……いいんです。やってしまってください」
「待て何をする気だ」

 福沢(誠)は話が見えずに割り込んだ。
細田さんが僕の体でこれ以上愚かな真似をする前に、どうかぶん殴ってください」
「でも坂上君。僕はこの肉体を巧く扱える自信がありません。あなたの頭蓋骨を粉砕してしまうかもしれない」
「そうだ。お前はもう二度と動かず突っ立ってろ」
 自身が連続撲殺魔になってしまうことを危惧して福沢(誠)がいさめた。
「背に腹はかえられない……最悪死んでも構いません!」
「そこまで言うなら分かりました。やりましょう」
「ダメだっつってんだろ!」
福沢(誠)は自分に取り縋り引き止めようと踏ん張った。
「行け荒井さん! かっこいい〜!」
 入れ替わるように風間(玲子)は新堂(昭二)からスッと離れるとワクワクを隠しもせず囃し立てた。
 慌てたのは坂上(友晴)だった。
「うわあ暴力反た……ぎゃっ!」
 坂上(友晴)は倒れた。その背後に立っていたのは全身から汗水を垂らす細田明美)だった。肥満体に耐えられず、みんなから距離を取ってずっとワークアウトに励んでいた彼(彼女)だったが、岩下(修一)の訴えを聞いて即座にその願いを叶えたのだ。
「これで良かったのかしら坂上君」
「はい、いいんですこれで……ありがとうございます岩下さん」
「私の体を大切に扱ってくれるなら、この豚の体を人間に極限まで近づけた状態であなたに渡す事を約束するわ」
「うう……お心遣い痛み入ります」
 岩下(修一)は泣いた。再び入れ替われたとしても、自分の肉体には戻れないかもしれない。しかしそれを覚悟したのは他ならぬ自分自身だった。
「荒井さんも元気出してくださいよぉ。体が新堂さんのでも風間さんのでも、身長だけはあるじゃないですか」
「風間の体なんて嫌だ……」
「……よし! 切り替えていこうぜ! 日野の野郎をぶっ飛ばす作戦会議だ」
 パンパンと手を叩いて福沢(誠)は皆に呼びかけた。日野を倒し自分の体を取り戻すには、力を合わせるしかないのだ。例え息が合わなくてバラバラなメンツでも。
横たわる二人の体を前に作戦会議がようやく始まった。